世界居住文化大図鑑
人と自然の共生の物語

人々は、地域の気候の影響を受けて、さまざまな建築を生んできた。地球の生態系のバランスを崩すことなく、自然と調和した生活を送ってきたのである。しかし近年、気候変動がもたらす異常気象により世界中の人々は生命を脅かされる事態に直面している。また近代化に伴う開発も各地で進められ、世界各地の貴重なヴァナキュラー建築と居住文化が失われつつある。
地域の気候や立地、人々の生活や文化に応じてつくられる建築「ヴァナキュラー建築」。人類は何千年ものあいだ創意工夫をつづけ、私たちと地球にとって解決策となるプランを蓄積してきた。
本書では、過去から現在にいたる、世界中のヴァナキュラー建築を紹介。気候帯ごとに環境と構築物の関係について検討し、先人たちが持続可能な生活を求めて試行錯誤してきたやり方を考察する。

総論
気候が建築の材料とデザインに与える影響
ケッペンの気候分類地図
ヴァナキュラー建築に使われる土の地質学的分類
構築環境に使われる植物
人類学からみたヴァナキュラー建築
「ヴァナキュラー」の価値

熱帯
熱帯の豊かさと多様性
チャトルハウスと木造建築／カリブ海地域
先住民建築と植民地建築／ベネズエラ
ワオラニ族の伝統住居／エクアドルのアマゾン流域
ヤノマミ族の住居／ブラジルのアマゾン流域
先住民住居マロカ／アマゾン流域
グアラニー族の「大きな家」／パラグアイ
グルンシ族の泥の家／ブルキナファソとガーナ
ハウサ族・ヨルバ族・イグボ族の住まい／ナイジェリア
円錐屋根の家とヤシの木の家／コンゴ民主共和国と南スーダン
ドーム型の家／ルワンダ・ブルンジ・南スーダン・ケニア
木造宮殿／マダガスカル
カチャ・ブッカ・セミブッカ／インド
東南アジアにおけるヴァナキュラー建築の移住とモンスーンへの適応
竹の高床式倉庫／ラオス
ケン様式とクメール様式の住まい／カンボジア
多文化建築／マレーシア
クボとバレ／フィリピン
スンバ族のルマ・アダットとマラブ／インドネシア
アボリジニの住まい／熱帯オーストラリア
ロングハウスとコロワイ族のツリーハウス／ニューギニア
バイ・ウリタオの家・ベバイ・カテル・石積みの家／トンガ
ファレとマラエ／フランス領ポリネシア
茅葺きのハレ／ハワイ

乾燥帯
砂漠の極限気候への応答
プエブロとメサの発展／アメリカ南西部とメキシコ
トトラ葦とアドベの家／ペルー
キンチャ・アドベ・グアヤキルケイン／チリ
チパヤ族の円錐型の家／ボリビア
アルティプラノのアドベブロック・石・泥／アルゼンチン
アフリカにおけるヴァナキュラー建築の気候・資源・文化への適応
テントと泥レンガの家／モロッコ・チュニジア・エジプト
防衛集落クサール／アルジェリア
ベルベル人の住居タダート／リビア
ハイマと泥レンガの家／モーリタニア
アドベ建築／マリとニジェール
遊牧と定住の構造／チャドからソマリアまでのサヘル地域
土とナツメヤシの構造／アラビア半島
塔状住居と中庭式住居／イエメン
石と土の建築／レバント地方とイスラエル
農民の家・都市の家・遊牧民の家／ヨルダン
石の家とサステイナビリティ／レバノン
土のドーム／シリア
洞窟住居と木造住居／トルコ
蜂の小屋／南アナトリア
中庭住居が生む微気候／イラク
マーシュ・アラブの葦の家／イラク
建築の多様性・地域性・西洋化／イラン
土と木と石の家とチャラウ／パキスタン
夏の部屋と冬の部屋／ウズベキスタン
中庭式住居とユルト／タジキスタンとキルギス
ゲル／内陸アジア・モンゴル

温帯
建材と建築の温帯への適応
チッキー・チャールストンハウス・ショットガンハウス／アメリカ南部
キンチャ・アドベの家・石の家／南米
ヨーロッパ大陸におけるヴァナキュラー建築の気候への適応
コブ・石・粘土・茅葺き・木の建築／イギリス諸島
塔／シナ・チベット地域
アドベと版築の住居／中国北部
トン族の集落と鼓楼／中国
ノワの家とグービーの家／韓国
閩南人の集落／台湾
都市と農村の民家／日本

大陸性
大陸性気候の変化と文化
亜寒帯と北西海岸の先住民住居／北米
芝・木・シェルター構造／ノルウェー
針葉樹と広葉樹の家／スウェーデン
木の家／ロシア北部と中部
フェルトの家／カザフスタン
ユルト・竪穴式住居・ファンザ／ロシア東部
マオリ族の住まい／ニュージーランド

極地
雪・石・木による極地への適応
住居の断熱と工夫／北極圏
スニダ・クビアナウス・クランブラによる芝の建築／アイスランド
サーミ人のゴアティ／スカンディナヴィア北部とコラ半島

付録：現代のヴァナキュラー建築
ウィンド＆ウォーター・バー
DESIトレーニングセンター
ジェフリーの家
ジャナマニ・ビジターセンター
華潤大学
ワデシュワルのシヴ寺院
マリア・グラツィア・クトゥリ小学校
ガンド小学校の図書館
リュフィスクの女性センター
ゲルミン技術学校
タンバボックス
ブライトン廃棄物ハウス

サンドラ・ピシク（Sandra Piesik）
受賞歴のある建築家、作家、研究者。
国連ハビタット（国際連合人間居住計画）グローバルソリューション部門の都市と農村をつなぐシニアコンサルタント。
国連気候変動枠組条約を含む国連機関のステークホルダーで、ネットワークメンバー。

本間健太郎（ほんまけんたろう）
東京大学生産技術研究所准教授。
専門は建築計画。

前田昌弘（まえだまさひろ）
京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。
専門は住居計画・まちづくり。